2013/02/23//Sat.
写真展「旅の、まだ途中」 Web ver
旅の、まだ途中


 写真を本格的に始めたきっかけは、八年前、危うくウツになりかけたことだった。
 その頃の僕は文章の仕事なんかをしていて、ずっと室内と自分の脳内に閉じ篭りきりだった。不健康生活と軟禁状態じみた徹夜作業の連続で身体を壊し、可愛がっていた金魚も死なせてしまい……それなのに、力を尽くしてきたはずの文章も、資料を引いて書いていただけで、いわばちっとも「肉体を伴っていない」ということに気付いてしまった。
 自分の目で何も見てはいなかった後悔に苛まれ、情報化社会なんか嘘っぱちだと罵ったあげく、僕は、遅ればせながらの「自分探しの旅」に旅立ったのだ。
 どうして旅という手段を選んだのかは忘れたが、伊勢、高野山、熊野という南紀のパワースポットを網羅するルートが、当時の僕の病み具合をよく表しているだろう。

 聞き慣れない関西弁の世間で心細くなり、山奥の民宿のフトンで謎の吸血昆虫に襲われ、伊勢神宮では神様に拒絶されている感を味わい……まあとにかく旅の効果はテキメンだったが、ところで、旅の友といえばカメラである。
 それまでも資料作りなどに黎明期のデジカメを使ってはいたが、情報化社会は嘘っぱちなので、目をつけていたフィルムのAF一眼を両親から強奪することにした。
 おかげで、と言いたいが、伊勢神宮でこいつは壊れた。プラ製の電池蓋が突如割れ、僕はおかしの袋のテープ部分をそこに貼り付けてなんとか旅を乗り切り、帰ってきてすぐさま金属製のマニュアルカメラを買い、そこのカメラ店に就職した。

 何だか展開が早すぎるようだが、そういうことだ。
 もともとマニア気質なのですぐにカメラには詳しくなり、怪しげな古いレンズをたくさん買い、スナップ写真をたくさん撮った。
 それと並行して、「写真を撮る」ということが、しごく真っ当な旅の理由づけとなるということを実感し、暇を見つけては、日本各地、行ったことのないところへ飛んでいくようになったのだ。
 有名な観光地があろうがなかろうが、かまわなかった。地図を見て気になったその場所を実際に歩き、空気を感じることが、何よりの喜びだった。

 写真は、動画と違って動いたり音が鳴ったりはしないが、だからこそ、撮った本人ですら思いも寄らないような記憶を呼び起こしてくれる。
 その時の一枚を見ることで、その場の音や匂いや温度や……そういうものも思い出すことができる。もちろんそれはごく私的なことだが、写真を見てくれた人が、そういう気配を漠然と感じて、「旅に出たい」という気持ちになってくれれば、それが旅写真の価値なんだろうと思う。




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 雨男なんだろうな、と思う。旅に出ると、たいていは降られる。
 だけど、雨の中で撮ることが好きだ。曇りだったら雨の方がいいと思うし、降らないともの足りない気さえする。
 カメラもずぶ濡れになることが多いが、あんまり気にしない。頑丈さと防塵防滴が身上のペンタックスLXは、こんな僕の手に渡って来てさぞ幸せだろうと……いや、もうヤだと思っているかもしれないが。
 雨に濡れる大阪、傘がなかった長崎、しとしとと波紋を広げていた瀬戸内、春先の大雪だった白川郷……。
 次の旅でも降ってくれないかと、ひそかに願っている。



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 自分がこんなに船が好きだとは、造船所に巡り会うまで気付きもしなかった。
 祖父は遠洋漁業の人で、小さい頃、よく近くの港に係留されている船を見せに連れて行ってくれた。その記憶があるのかもしれない。あるいは、港町生まれだから、ドックというものにどこか郷愁を感じるのかもしれない。
 祖父から教えてもらって、僕が最初に憶えた長い単語が「海上保安庁」だ。でも、大きくなったら「ごみ自動車」になりたいと言っていた。らしい。

 ばかでかい船を造るわけだから、ドックやクレーンもとにかくばかでかい。
 他の乗り物が到底及ばない途轍もない重量感があり、圧倒される。
 僕はのけぞり、ビビるが、そこで、普通のおっさんが普通に働いている。100トン200トン吊りという化け物クレーンを、別に何でもない顔をして動かしている。クレーンもまた、音もなく滑らかに、そして案外素早く動く。
 写真をどう撮ればこれら「凄さ」が伝わるのか、いまだによくわかっていないというのもあって(つまり、凄すぎるということなのだろう)、旅先に造船所がないか、今回もつい探してしまう。
 福岡、佐世保、長崎、清水、呉、と来て、次は今治に行きます。




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 何度か怒られもしたけれど、都会で人を撮らない手はない。
 だけれど、「写真はシューティングゲームじゃない」。
 ……心に残っている言葉。


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 今、モノクロはフィルムで、カラーはデジタルで撮っている。
 好きだったカラーフィルムが生産終了になってしまったこともあるし、湿気だかガスだかにそのフィルムが弱いらしいという苦い経験もあって、割り切ってそうしている。
 デジタルの色もいい色が出るようになってきたし、だんだん手にも馴染んで来た。これはこれでいいと思う。
 だけど、やっぱりまだモノクロはフィルムの方が好きだ。デジタルとか演算とかが入ってこない、化学反応の不思議さとどうしようもなさが、嬉しかったり辛かったりするところが。


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 故郷の漁港で何度も撮ったが、飽きない。
 漁港が大漁の日はこちらも「大漁」だ。雨の日や台風が近い日に大物が揚がることもあって、なんとも心がざわざわする。

 台所と墓場が合体したようなあの場所。これからも色々見せてもらおうと思っている。
 慌ただしくて、残酷で、シュールで、可笑しくもある。
 つまり、戦場とおんなじだ。


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東京へ、故郷への旅

 長旅だった。
 沢木耕太郎の「深夜特急」に、旅をもっと続けるか? 金がなくなったらアイスランドで蟹工船にでも乗るか! みたいな下りがあったが、それにちょっと似ていたかもしれない。……と、これまでの東京での生き様を書き出すと壁一面それで埋まってしまうので、大胆にカット。

 旅とは非日常であり、とすると、いずれは日常へと帰らなければいけないというのが定めだ。
 僕も、いつの日だったか、気付くことになった。
 東京が、色々なところへ連れて行ってくれるターミナルであったと同時に、そのターミナル=東京へも、僕は旅をしているのではないだろうか? と。

 自分の、東京を見る目がそうだった。いつまでも田舎者の視線が抜けず、しかし、その目でものを見られることを楽しんでいたとも思う。街中で色々スナップしたが、それらも結局はそういう視線のものだった。

 旅はいつか終わる。
 この写真展が終わり、ちょっとまた西の方へ出かけた後、僕は生まれ故郷へと帰る。そこでまた生きることになる。

 故郷……。上京してきた頃は、故郷のことが嫌いだった。
 西日の中でカサカサにゴーストタウン化している街を見て、ここから逃げ出さないとヤバい、と、エミネムじみたことを考えたこともあった。茶化して言っているが、当時の僕は本気で戦慄したのだ。
 しかし、故郷に対する感情が決してそれだけではないのだということ……自分の中に埋もれているものがまだあるのだということを知らせてくれたのも、写真との出会いだった。
 大河と海と砂地とコンビナートと……あの田舎を写真にしたらどんな風に写るだろう? そう思わなければ、もう一度生まれ故郷を歩こうなどとは……そして、もう一度その地で生活しようなどとも思わなかったかもしれない。

 その「帰還」すらも、僕にとっては旅かもしれない。
 「旅こそ人生」……そう詠って長旅を続ける人もいるだろうが、逆だと思う。
 「人生こそ旅」なのだ。



2013.2.13-2.17
神田神保町 ギャラリー CORSO


>> 2013/02/25 19:33
う〜ん、長い旅のほんのちょっとの光景を垣間見た気がします。
長ければ長いほど、思い起こすと一瞬で過ぎてしまうようなそんな気がします。
でもこの一連の写真を見ていたら僕もなんだか旅に出たくなりました。
>> 2013/03/05 09:22
snap.comさん>
ご覧いただきありがとうございます!
写真展をやるなら、それなりに枚数は出そうというのは前々からイメージにあったことですが、おっしゃるとおり、枚数と、それらから体感する時間というのは、必ずしも紐付かないような気がします。
多分、僕の撮り方が「長い旅」を感じさせるものではないのだと思います。

知らない土地の中を、一歩ずつ歩きながら見ることが旅なんだろうな、と思います。








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狛です。
スナップ経由の風景写真、巨樹探訪旅、無計画な遠出の紀行文。
スバル・フォレスターが来て、調子に乗っているようです。

・巨樹探訪旅やってます。・
「巨樹を訪ねる」

・写真展(2013.2)・
「旅の、まだ途中」
(Web版が見られます)



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