2016/03/13//Sun.
晩秋 福島・山形巨樹行(6)
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MX-1
K-7 / CZ Ultron 50mmf1.8

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 日本海まで出たことで、ようやく気持ちに区切りがついた。
 暮れ行く海を見て、寒風に巻かれて、ここが今回の終点なのだと実感することができた。


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 寒いな。
 波を眺めていると、風の強さと冷たさとで、涙がぽろぽろ出てくる。
 徐々に薄闇に沈んで行く日本海は美しく、フードをかぶってカメラを構えて、それでもしばらく粘っていたけれど、負けを認めて車に戻ることにした。
 これからやってくる冬が、この土地ではとても強大なのだろうと、そう実感しつつ。

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 さて……じゃあ、うちに帰りますか。

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 今度は道案内を無視して逆に曲がったりはしないのだ。
 素直に走り続けて、できるだけスムーズに家に戻ろうと思う。
 ナビによれば10時間くらい?
 ははあ、そうすればちょっと身体を休める時間くらいは残せるってわけだ。


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 あっという間に真っ暗になった。
 日本海に背を向け、太平洋を目指して走るということは、暗闇の中を山に分け入って行くということだ。
 晩飯は市街地が切れる前に済ませたからいいとして、あとはまたひたすら孤独な道行き。

 時刻は普段寝ていてもおかしくない頃合いになり、ちょっとしんどくなってきた。
 コンビニや道の駅はおろか民家の灯りもほとんど見えない道が続いたが、そこにふとエアポケットのような広場を見つける。
 ナトリウム灯とトイレだけがあって、おそらく休息ポイントということなのだろう、とりあえずここで一休みすることにした。
 行きの道の駅での車中泊は、眩しかったり近隣の車が騒々しかったりしたが、ここなら落ち着けそうだ。
 寝袋を広げ、就寝の準備。

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 ……どんな内容か、起きた瞬間完全に記憶が消毒されてしまっていたが、なにか愉快きわまりない夢を見て、自分の馬鹿笑いの声で目が覚めた。
 3時間くらい仮眠するつもりで腕時計のアラームをセットしたのだが、自分でこしらえた車中泊セットが快適すぎるものか、気付けば5時間半あまりもぐっすり眠ってしまっていた。
 頭がすっきりしていることに気付き、また笑う。

 トイレに行き、ふと見ると、隣に黒いフィットが停まっている。
 どうやら車中泊のご同胞のようで、とすると、自分がここでビバークしているのを見て寄り添うように停めたのかな。
 なんだかちょっと親近感が湧く。
 と、向こうを見ると、停めた時にはいなかった車が2、3台、増えている。
 キャンプ村だ。

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 走り出し……この写真はかなり経ってから撮ったものだ。

 というのも、走り出してから3時間くらいか、写真を撮っている余裕なんかちっとも無かったのだ。
 月山を過ぎ、周囲はすっかり山深い暗闇に沈んでしまったのだが、ここで奇襲をかけてきた伏兵は、なんとガソリン。
 日本海に背中を向けた時点で残量は半分よりちょっとあるというところで、道中補給すればいいと思っていた。
 以前、佐渡島に渡った時のオイルショックの経験を活かすべきだったのだが、ここは離島ではないし、しかし佐渡島ほどでないにせよ割高なスタンドでわざわざ給油する必要もないだろ、なんて、つまりそれが油断だったのだ。
 まさに油断。字の通りの油断。

 月山からの山道沿い、とうとう130キロあまりもガソリンスタンドは1軒も無かった。
 道の駅がいくつかあるが、その周辺にも無い。しかも道は長い登坂が延々続き、燃費にも相当な酷。
 ついにレンジ計算(あと何キロ走れるかを表示する)が2桁の数字しか出さなくなってしまい、しかし最寄りの市街であろう寒河江市までもあと50キロくらいあると標識が出ている……。
 レンジ計算はその時の燃費で距離を計算するので、更新された瞬間ガクッと数字が増減することがある。
 とうとうスタンドを見つけられないまま数字は50キロを割った! 
 冷や汗。辛うじて下り坂になるところではアクセルを踏まず、ほぼ惰性で走るようにする。数字が少し回復する。
 極限エコドライブ体験をしつつ、ナビで最寄りスタンドを検索。
 他はどうでもいい、目的地はただこのスタンドだ!

 しばらくしてようやくこぢんまりした街中に出る。
 しかし深夜のことなので、スタンドがあっても開店していなければアウトだろう。
 いや、時と場合ということがある、朝になって開店するまで待つべきだ……。
 そんなことを考えている間に、道沿いに輝くエッソモービルの看板!
 どこかぼんやりした灯りだったが、自分にはまばゆく輝いて見えた。
 オアシスだ!



 結局。
 小さな田舎スタンドの太った兄ちゃんに給油して貰った燃料は、日本海側よりもだいぶ高い単価で、欲をかいてかえって損するという諺(どういう諺か知りたくもない)の実例のようになってしまった。
 が、走り出してすぐ、それで損したとも思えなくなった。
 そこからまた市街地は切れ、スタンドは30キロあまりルート上から姿を消したのだ。
 あのオアシスで給油しなかったら、ほんとにやばかったということだ……。


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 朝日が昇るより早く雨が降り始めた。

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 牧場の間や、再び山がちになった道を走り抜ける。
 ラジオでは中島みゆきがオールナイト・ニッポンをやっている。
 歌とトークの落差が大きくてとても面白いが、そろそろ終わりという頃だ。

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 いつも通り、帰り道は早い。
 一晩で500キロ近く戻るのだから、翌日に体力を温存することを考えても、早く我が家に辿り着くべきだ。
 だが、旅の本心としては、これもいつもどおり、後ろ髪を引かれる思いがある。
 雨なら雨で、雨の世間をゆっくり見て回れたらいいのに……と少し思う。
 
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 結局、帰り着いたのは午後。
 考えた結果、福島県いわき市であと一カ所だけ寄って行くことにしたのだった。
 雨でも朝でもあまり関係のないもの……まあ、それも樹だってことだ。
 敢えて寄ってみる価値のあるものだったと思う。
 その写真もまた後で。

 二日前の出発地点に帰り着いた時の走行距離は986キロ。
 1000キロにはわずかに届かなかったようなので、その辺を流してくる……なんて、そんな気分にはならなかったな。
 これが今回の旅だったってことなのだろう。

 行ったことのない場所、あえて自分の脚で行かないと一生行くことはなかっただろう場所に行くこともできた。
 印象的な樹にもたくさん出会えた。
 まさか2泊も車の中で眠るとは思ってもみなかったけど……やってみた分だけ可能性は広がっていくということなのだろう。
 そう思った。

(おわり)

>> 2016/03/14 08:34
エッセイを読み終わったような充実感。
こんどはオムさんとのトークも期待してます。

走って走って
ひたすら走ってますね。
スタンド、そういわれるとあまり見かけないかも。
>> 2016/03/15 22:10
ぴよ社長さん>
長くなりましたが、読んでくださってありがとうございます!
いつもいただく楽しいコメントが活力になってます(笑)。

そうですね、今回はひとりでしかできない勝手気侭な旅という感じでしたが、お連れがいると、それもまたかなり楽しいですね。
喧嘩も(必ず)するけど、ずっと走ってても飽きないし。
今年もまた5月の連休どっか行くと思うので、そしたら。

おっと、給油は早めに忘れずしとくように肝に銘じます。
>> 2016/03/16 21:07
ノンフィクション一大長編の連載お疲れ様でした。
楽しく拝見しましたよ。
実際に長距離も運転してかなり疲れたでしょうね。
でもまた次作も期待してます(笑)。
>> 2016/03/17 23:08
RYO-JIさん>
RYO-JIさんもやはり、ついてきて下さってありがとうございます。
疲れましたが、楽しくて時を忘れるような旅でしたよ。
自分で道を進んで行くって、いいですね。








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狛です。
スナップ経由の風景写真、巨樹探訪旅、無計画な遠出の紀行文。
スバル・フォレスターが来て、調子に乗っているようです。

・巨樹探訪旅やってます。・
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・写真展(2013.2)・
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