2018/03/27//Tue.
巨樹を訪ねる 小黒川のミズナラ
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K-1 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 岐阜県の南端部から県境を越え、長野県に入りました。
 その間ずっと分け隔てない山中を走っているような印象で、どんどん標高が高くなり、空気がしんと冷えてきた16時、ついにその樹の元に辿りつきました。
 日本最大のミズナラ、「小黒川のミズナラ」です。


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 道路からも一目でわかる、周囲の木々とは全く違う存在感。

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 腕を長く天に差しのばしたかのような、長大で広大な樹。
 絵に描いたようなイメージ通りの「樹」という姿で、これまで見たことのないほどのスケールを誇っています。
 これは確かにすごい。
 こんな立ち姿の樹は他にない。

 ミズナラは関東平野にあってはほとんど見られませんが、そのはず、コナラよりも高山性の樹種だそうです。
 標高1600メートルほどまで生育でき、豊かな枝張りを持ち、秋にはたくさんのどんぐりを付ける樹です。

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 幹周囲は、解説板には9.4メートルとありますが、一般的に7.5メートル前後というのが実際とされているようです。
 計測箇所の違いか……近寄れませんが、目の当たりにするところ9メートルはないように思えました。
 が、無論これでもこの樹が日本最大のミズナラであることには変わりはなく、国の天然記念物指定を受けているのはこの樹種ではこの樹だけだそうです。

 ぜひ一度間近に見てみたいと思っていた樹です。
 その肩書きからだけでなく、巨樹の書籍の数多いページの中でも綺麗な樹形がひときわ目を引き、これは実物を見たい! と強く思わせるものがあったのです。

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 そして、ついに念願が叶ったというわけです。
 しかし……。
 そう書かねばならないのが辛いです。
 樹の周囲を巡っていくと、もう書籍の写真が撮られた頃と同じ姿ではないということがわかってしまいます。
 平成24年に突如大枝が折れ、背中側がえぐれたように欠損してしまったというのです。

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 傍の四阿のようなところにその枝の標本と折れた際の写真が展示してありました。
 かなりの規模での枝折れ。
 人間で言えば、肩もろとも腕を失ったに等しいでしょう。
 輪切りの標本も、まるで幹かと疑うような大きさです。

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 密に詰まったきめの細かい白い木肌は、すべすべした石のようでした。
 これが折れてしまったのか……。
 実物を前にしながらそう思うと、なんだか気が遠くなりそうでした。
 本当に付け根からごっそり行ったらしく、ということはつまり、この樹の幹が弱ってきているということを示しているのでしょう。

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 大枝を失ってしまうと、広く腕を広げる樹は重量バランスを失ってしまう。
 側面に回って全体像を見た時、失ったものの大きさを思い知らされました。
 「どこから見ても美しい」と言われた姿は失われ、今は無数の支えに寄りかかるように生きている……あまりにも痛々しい。

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 この樹を守ろうと、多くの人たちが尽力していることがわかります。
 非常にありがたいことです。おかげで僕もこの樹を見ることができたのでしょう。

 巨樹に付けられている解説文の数というのは、その樹の存在がどれだけ危ぶまれているかに比例しているように思います。
 偉人お手植えや魔物が住んでいるという伝説もその一種で、そういった解説をつけることで、その樹がいかに特別なものであるかをアピールして、保護につなげる。
 それが二つ、三つと増えていくのは、樹に何かがあった証拠……このミズナラの周囲は解説文だらけでした。

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 根幹内部はほとんど不朽しているとのこと……。
 外科的処置、薬剤、土壌改良、保護、菌を利用した化学的処置まで行われて、絶対安静という状況に見えます。
 薬剤で黒く染まった半身が、もはやなりふり構っていられないのだと周囲に告げているかのようです。

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 これが「小黒川のミズナラ」の、隠しようのない、今の姿。
 巨樹の本で導いてくれた故・渡辺典博さんが書いている……

 「今まで多くの巨木たちに会ってきたが、こんなに理想的な形に育った木も珍しい。
  美しさを超えて神々しささえ感じる。まさしく『山の神』である」

 多分、渡辺さんがこの姿を見たらとても悲しんだと思います。
 その直接的な原因が人間による開発ではないのが救いですが……間接的にはこの樹の、「山の神」の寿命を縮めるような原因を作っているのだろうなと、どうしても胸が痛みました。

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 恐ろしいことに、ミズナラにはさらにキクイムシの脅威まで襲っている。
 すでにそれは背後の山まで迫っているという……。
 またもや解説文を読み、それがいかに容赦のない、ミズナラ抹殺エイリアンのような存在であると知って背筋が寒くなりました。
 フェロモンで仲間を呼んでマスアタックを仕掛けたあげく、病原菌を呼び込み、幼虫の栄養となる酵母まで発生させて食い尽くす。
 これにかかると、わずか1、2週間で急激に樹は枯死してしまう……。
 300年生きたこんな樹が、1、2週間で死んでしまうのだという……。
 このミズナラの樹皮が妙に茶色いのも、キクイムシ予防のために薬剤まみれになったせいらしい。

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 満身創痍ながら、まだ葉がこんもりと多く、懸命に命をつなごうとしているようにも見えました。
 おそらく……おそらく、この樹の命は、もうそう長くはない。 
 手当の効果が出るかもしれず、そこに絶対に期待したいはずなのに、こみ上げてくるのは、そういう悲しい想像でした。

 何百年もそこにあった巨樹に、もう明日会えないかもしれない。
 そういうことが現実にある。
 何百年もそこから動かない存在でありながら、巨樹との出会いというのは一期一会なのだなと思わずにはいられません。
 
 その余生の安らかであることを祈ります……。


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 解説文。


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「小黒川のミズナラ」
 長野県下伊那郡阿智村清内路
 樹齢:300年以上
 樹種:ミズナラ
 樹高:33メートル
 幹周:7.3メートル
>> 2018/03/28 20:50
深く考えたことがありませんでしたが、確かに状態の良くない巨樹ほど逸話や伝説の類が案内板に掲げられていますね。葉っぱを見る限りまだまだ勢いを感じますが…この主幹を見てしまうと延命治療で死を先延ばしにするくらいしか難しそうですね。全方位に枝を広げたミズナラ…壮観でしょうねえ。命あるうちに僕も訪れてみたい一本です。
>> 2018/03/29 09:24
to-fuさん>
アツい感じで渡辺センセイが書いていたこのミズナラに会いたかったのですが、やはりいつまでも何事もないというわけにはいかないのですね。
これがこの樹の現実、生あるうちに見られて良かったと思います。
杉だったらここからまた何か別のことを思いついたかのように変形しながら成長するかもしれませんが……
でも、想像以上の生命力があればこそここまで生きてこれた樹なのですから、これからも粘り強く生きていって欲しいです。
まだまだ、最大のミズナラの威厳を保っていると思いました。
>> 2018/03/29 21:10
すぐには言葉が出てこないです。
「山の神」とまで例えられる素晴らしいミズナラなんですね。
すぐさま渡辺センセイの書を開き、その当時の写真と文章を熟読しました。
狛さんの記事との違いに改めて悲しい思いに捉われます。
自然界の厳しさをまざまざと見せつけられたような気がします。
このミズナラの生命力と人類の英知に期待せずにはいられません。
残すべき遺産ですよ、絶対に。
>> 2018/03/30 10:11
RYO-JIさん>
渡辺センセイの書には大いに触発され、感化されて見にいきたいと思った樹も多いのですが、それだけにこのミズナラの現実はただ訪ねたよりも重く辛く感じました。
せめてキクイムシからは守られ、消耗戦みたいになったとしても、天寿を全うして欲しいと願います。
また、RYO-JIさんにも奈良で見せていただきましたが、ミズナラという樹種についても、気になるきっかけを作ってくれた樹でもありました。








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