2018/04/16//Mon.
巨樹を訪ねる 月瀬の大杉
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K-1 / HD PENTAX-D FA 28-105mmF3.5-5.6ED DC WR

 結果的にこの長旅最後の巨樹探訪となりました。
 いずれどうしても訪れたいと願っていた「月瀬の大杉」です。


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 まず、「月瀬」はこの辺りの集落の名前で、「つきぜ」と濁って発音します。
 所在は長野県下伊那郡根羽村というところ。
 結構な山に囲まれた村で、過疎が問題なのか、「根羽村」にかけて「長野のネバーランド」みたいなキャッチを立ち上げていたりしました。
 ネバーランド……。
 確かに、都市部でせかせか生きている人たちからすれば一生縁の発生しないような土地かもしれません。
 そういうところなので、大杉は目立つ見所のひとつということになり、周囲は広々とした「大杉公園」に整備されています。
 駐車場やトイレも完備されていて、至れり尽くせり。

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 なんと、吊橋まで新造されたらしい。
 おそらくこれがないとぐるっと回り込む形になるのではないでしょうか。
 大杉のために随分巨額をつぎ込んだものです。

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 邪魔になるような木立などもないので、すぐにその巨大な姿が目に入り、こちらの心拍数を急上昇させてくれます。
 雨ですが、合羽姿で駆け出さずにいられなくなる。

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 念願の月瀬の大杉!
 主幹の巨大さがものすごいのに加え、さらに腕のように張り出したもう一本の幹があり、規模が倍加しています。
 幹周囲13.8メートルで樹種別全国6位。
 樹高は40メートルと、堂々たる巨樹ぶり。

 ……わかってます。
 数値より、どれだけのものか、ってことですね。 

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 はい、人間を加えてみると、このような感じになります。
 ……でかい、ものすごく。
 単純にそれしか言葉が出て来ませんでした。
 主幹がほとんどそのままの太さで立ち上がっていることにも驚かされます。
 なんて立派な杉だろう。

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 囲いからかなり離れたところにも、明らかにこの樹のものである巨大な根が顔を覗かせています。
 この一帯の地盤を掌握してしまっていることは想像に難くありません。

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 根羽村は長野県のほぼ最南部に位置しているので、裏杉のゾーンからは外れているのでしょう。
 加子母の杉もそうでしたが、それらしく、ズドンと天を衝く姿勢が勇ましい。
 ここまでやって来たか……と、自分の旅足への感慨にふけるところもありました。

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 第一印象では、張り出した副幹が気になるわけで、横方向に広がって幹周の数値を稼ぐ樹なのかと思いがちですが、どこから見ても分厚いボリュームがあります。
 ぐるぐると回って、どの角度からでも見応えがある。
 傾斜している地にあるので根元の逞しさもすごいし、全体的な樹勢もいい。
 これも単純にしか言葉が出なかったのですが、いい樹だなあ……としみじみ。

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 杉の柔らかさというものからは遠ざかったようなどっしりとした主幹は、ある意味杉という樹種の理想形を達成していると思います。
 素晴らしい。

 実はこの杉、あまり立派なので、焼失した江戸城本丸の復興用材として伐られる運命だったそうです。
 が、月瀬の人たちが皆で団結して死守した。だから今ここにある。
 幕藩の時代にそこまでやるということがどれだけ大変なことか……杉もその声に応えて元気に生きているような気がしてきます。

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 ほとんど土砂降りの中でしたが、1時間以上も杉のそばにいました。
 どこから見ても惚れ惚れする樹ですが、それ以上に何か惹きつけられるものが確かにあり、なかなか離れる気になりませんでした。

 実は、この杉に興味を持ったのも、よく参照する書籍やサイトなどの先輩方がとても好意的に取り上げておられたのを見たのがきっかけでした。
 大きい杉ならいくつもあるし、これより大きいものもある。
 しかしあえてこんな山深い村に幾度も足を運んだり、特筆と言っていい文をつけたりしている。
 大きさを実感するのはもちろんですが、そういう「この樹ならでは」があるなら、自分でも感じてみたい。

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 かくして、月瀬の大杉の前に立った時、ああ、確かに、わかるわ……と、そんな言葉が口をついて出ました。
 トップクラスに巨大で迫力はものすごいが、もちろん威圧的恐怖的なそれではない。
 かと言って、神様のように上からものを語りかけてくるような感じでもない気がします。

 これは御神木なのですが、それ以前に集落のど真ん中にあって、もっと言えば集落とか地域そのものであるというような……誇張して言うと、「世界樹」みたいなものに近いんじゃないかと思いました。
 それは僕の主観、個人的な印象ですが、周囲の環境や雰囲気からそんな気がしてきたのです。
 この樹の上に住めるんなら、みんな住みたいと思ってるんじゃないかな、この辺の人は。

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 そんな大杉を抱く月瀬神社。
 大杉は、古来より大事変が起きる時、何の前触れもなく大枝が折れたと言います。
 なんでも、日露戦争開戦の時もそうだったとか。
 こぢんまりと鎮座しているこの神社と大杉には、他にも変わったご利益があるようなんですよ。

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 解説文。
 虫歯の神様なんです!
 しかも霊験あたらか。これは現代人にもありがたいじゃありませんか(笑)。

 上記の江戸城再建の用材というピンチに加え、さらに明治の神社統合の危機もあったことが書かれています。
 神社合祀政策が明治政府によって実行されたのが1906(明治39)年。
 身も蓋もなくいうと、小さな神社を潰しながら合体させ、運営に余裕を持たせることによって神社から政府がカネを得ようというシステム構築です。
 この法により、日本中で数多の神社が消滅させられることになりました(三重県ではおよそ9割の神社が失われたという)。
 現代から見れば明らかに悪法であり、文字通り八百万いた神様とその信仰も、神社も、御神木も、容赦無く根絶させられた。
 こんなものがなければ、どれだけ日本はユニークな神様とその傍の巨樹に恵まれた景色を持っていたか……。
 そんな想像も同時に湧き上がってきて、切なくなりました。

 そう、虫歯の神様だって、こうしてここにいるんだよ。他にもいっぱいいたはずなのです。
 大杉を無遠慮な権力の手から二度も懸命に守り抜き、現代に伝えてくれた地区の方々にはただただ脱帽です。
 巨樹を前にしてこれを読んでいたら、雨で寒いのか、はたまた感動してたまらなくなっているのか、ぶるぶるっと、震えがきました。

 親しみやすく、かつ尊い。
 とても好ましい人と樹の関係を感じさせてくれる。
 巨樹愛好家が憧れるのも無理はない、素晴らしい巨樹でした。


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「月瀬の大杉」
 長野県下伊那郡根羽村月瀬
 樹齢:1800年
 樹種:スギ
 樹高:40メートル
 幹周:13.8メートル
>> 2018/04/17 23:46
素晴らしいですね。樹皮からしてもうタダモノではない。質量がミッチリと詰まった塊のようです。
このクラスになると細かい数値なんてどうでもよくなりますよね。
理屈抜きに見た目のインパクトに圧倒されますもん。

それにしても、周辺の深い緑からとんでもなく肥沃な土であろうことが伝わってきます。もし杉に生まれ変わったらこんな山林で暮らしてみたいものです 笑
>> 2018/04/18 08:53
to-fuさん>
素晴らしいです。なんだか語彙のバリエーションを奪われる樹です(笑)。
「小黒川のミズナラ」で得ようとしていて気の毒ながら得られなかったものが、この樹で得られたような感じがありました。
もし樹に生まれ変わるなら……という想像は面白いですね!
人も生まれる家は選べませんが、その後違う土地に移ることはできる。
樹はそれが無く、膨大な時間を生まれたその地から一歩も移動せずに過ごす。
そこに生まれるという意味が、とても重大な意味を持っていると思います。
そういう意味では月瀬の大杉は幸せ。
山林だからと言って、ほかの樹に八つ裂きにされたりもせず……笑

いろんな樹に出会いましたが、この旅を締めくくるにふさわしい印象的な巨樹でした。
ここへは是非再訪したいです。
>> 2018/04/22 15:41
巨樹愛好家が憧れるスギですって!
目の肥えた愛好家たちにそこまで言わせるとは。
愛好家の端くれの端くれくらいの自分にもその凄さが伝わってきますよ。
いや、愛好家だけじゃなく、地域の人々にそこまで大切に扱われる存在ってスゴイことですね。
時代を考えるとまさに命がけで守ったってことでしょう。
そこまでしたくなる存在ってもはや家族並みの絆。
その姿はもちろん巨樹界でもレジェンド級ですが、それ以外のモノがこのスギにはあるのは間違いないですね。
狛さんの記事を見て、私もまた興奮が収まりません(笑)。
>> 2018/04/22 19:14
RYO-JIさん>
幸福な境遇の巨樹と言いましょうか……とりわけそう感じるものに時折出会います。
そんな環境込みでの存在であり、見て感じることで、こっちまで幸福になれるような気がしますね。
でも、間近でこの杉を見ると……そりゃあ守らないとな! と納得できるものがあります。
これ伐ってしまったら村のアイデンティティがなくなるし、取り返しのつかないことになる! 
そう思えるシンボルを何か心に持っているか? と、そんな問いかけも浮かんでくるかのようです。
素晴らしい樹、行けてよかったです。








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